
静岡県西部に位置する浜松市は、人口約78万人を擁する政令指定都市であり、東海道新幹線や東名高速道路を通じて東京・大阪の中間点に位置する交通の要衝です。豊かな自然と産業に恵まれたこの街は、近年「浜松餃子」や「浜名湖うなぎ」といった食文化、さらに世界的に知られる楽器産業によって、国内外の観光客から注目を集めています。これらの観光資源は、飲食店や物販店を中心としたテナント需要を支える重要な要素となっています。
食文化が生む集客力と出店意欲
浜松餃子は、全国的なご当地グルメランキングでも常に上位にランクインしており、毎年開催される「浜松餃子まつり」には約10万人の来場者が訪れます。市内には約300軒の餃子専門店が点在し、とくに浜松駅周辺や肴町通りでは行列ができる店舗が少なくありません。駅前再開発エリアにおける飲食テナントの賃料相場は坪あたり8,000円〜12,000円と安定しており、観光客の食需要に支えられています。
一方、浜名湖はうなぎの養殖地として全国に知られ、湖西市から浜松西部にかけて数多くの老舗料理店が軒を連ねています。近年は観光バスツアーの定番コースとしても人気で、年間数十万人の観光客が訪れる浜名湖ガーデンパークや舘山寺温泉と組み合わせて「食と観光」を楽しむ動きが広がっています。こうした需要は、観光地近隣の飲食テナントの安定稼働を後押ししています。
楽器産業と文化イベントがもたらす効果
浜松市はヤマハ・カワイ・ローランドといった世界的楽器メーカーの本社を有し、楽器生産額は全国シェアの約40%を占めています。「音楽の都」を掲げる同市では、3年ごとに「浜松国際ピアノコンクール」が開催され、世界40カ国以上から若手ピアニストが集結。開催期間中は約3万人の来場者があり、市中心部のホテルはほぼ満室となるほか、田町・有楽街エリアの飲食店やカフェの売上も大幅に伸びます。
さらに、毎年夏に開かれる「浜松ジャズウィーク」は市街地の広小路通りやアクトシティ浜松を舞台に展開され、延べ50,000人以上を動員しています。こうしたイベントは短期的な宿泊・飲食需要を高めるだけでなく、音楽教室や楽器販売店といった専門テナントの安定経営にも寄与しています。
観光と産業が連動するテナント需要
浜松駅北口周辺の再開発エリアでは、観光客やビジネス客をターゲットとしたカフェや軽食店の出店が続いています。新幹線を利用すれば東京から約90分、名古屋から約30分という利便性の高さもあり、日帰り利用客が多いことから短時間滞在型の店舗需要が高まっています。特に肴町や田町といった繁華街は、夜間人口が多く、飲食店の出店意欲が旺盛です。
また、舘山寺温泉や中田島砂丘といった観光地は年間数百万規模の観光客を集めており、その周辺では土産物店や体験型施設のテナント需要が伸びています。観光と産業イベントが同時進行で集客を支える浜松は、単一の観光資源に依存しない強みを持っています。
今後の展望
全国的に人口減少が進むなかで、浜松市も2020年以降は微減傾向にあります。しかし、観光資源を活かした外部からの流入は堅調であり、インバウンド需要も回復基調にあります。特に中国・台湾・韓国からの観光客は、浜松餃子やうなぎを目的に訪れるケースが増えており、飲食テナントにとって新たな市場となっています。
不動産の視点から見ても、浜松のテナント需要は観光資源に支えられ、長期的に安定的です。今後は駅前や繁華街での飲食・サービス業態の誘致に加え、浜名湖周辺での体験型・観光連動型テナントの拡充が課題となるでしょう。観光と産業が融合するこの街の特性を最大限に活かすことが、地域経済と不動産価値の向上につながっていくと考えられます。