静岡県浜松市は、多岐にわたる産業と活発な経済活動を持つ都市であり、多くの企業や事業者が店舗や事務所のテナント契約を結んでいます。事業用のテナント契約は、住居用とは異なり、高額な初期費用や複雑な契約内容が絡むため、トラブルが発生した場合の影響が甚大になりがちです。
本コラムでは、前述の内容をさらに掘り下げ、特に事業継続に影響を及ぼしやすいトラブル事例と、それを未然に防ぐための具体的な回避策を解説します。
1. トラブル事例と回避策(契約終了時に関する問題の深掘り)
1-1. 📈 原状回復と費用負担をめぐる対立(深掘り)
【事例】 退去時、貸主側が提示する原状回復の見積もりが、借主の想定を遥かに超える高額となるケースが非常に多いです。特に、「スケルトン戻し」を求められるにもかかわらず、その定義が曖昧だったり、建物の経年劣化(通常の損耗)部分まで借主負担とされたりする点で対立します。
【回避策】
-
契約前の状態を詳細に記録する:入居前には、建物の躯体や共用部分の劣化具合を含め、写真や動画、図面を用いて客観的な記録を作成し、貸主と双方で確認書を交わしておきます。
-
原状回復の範囲と特約の明文化:
-
「原状回復は借主が施した造作部分に限定し、通常の損耗・経年劣化部分は貸主負担とする」という原則を確認します。
-
スケルトン戻しが義務付けられている場合は、**「どの状態をスケルトンと見なすか(例えば、給排水管、電気配線、空調機の処理)」**を具体的な図面や写真で定義し、契約書(特約)に明記します。
-
見積もり業者の指定の有無:貸主指定の業者を利用しなければならないのか、借主が相見積もりを取れるのかも確認しておきます。
-
-
「造作買取請求権」の排除条項の確認:多くの事業用契約では、借主の造作買取請求権を排除する特約がありますが、この内容を理解した上で契約します。
1-2. 💰 敷金・保証金の返還時期と相殺
【事例】 退去後、原状回復費用や未払賃料などが差し引かれる敷金(保証金)の精算と返還が、長期にわたって行われないことがあります。また、貸主が一方的に高額な修繕費用を相殺し、返還額が極端に少なくなることも問題視されます。
【回避策】
-
返還時期の明記:契約書に、「敷金(保証金)は、物件の明け渡し完了、原状回復工事の完了、かつ、全ての債務の精算が完了した翌月末までに返還する」など、具体的な返還期限を明記させます。
-
精算内訳の開示義務:敷金から差し引かれる費用の詳細な内訳(見積もりや領収書)を、貸主が借主に対して速やかに開示する義務を契約書に盛り込むよう交渉します。
-
預託金としての性質の確認:敷金はあくまで賃貸借契約上の債務を担保する「預託金」であり、当然に賃料に充当されるものではないことを認識しておく必要があります。
2. トラブル事例と回避策(契約期間中の問題の深掘り)
2-1. 🔧 設備の故障と修理費用の責任(深掘り)
【事例】 特に居抜き物件や築年数が経過した物件では、エアコン、エレベーター、共用部の給排水設備など、高額な修繕費が発生する設備の故障が起こりがちです。
【回避策】
-
修繕責任の範囲の明確化:民法や契約の基本原則では、建物躯体や主要な設備(屋根、外壁、エレベーター、共用部の給排水管など)の修繕は貸主の負担となります。一方、専有部分にある借主が使用する設備(エアコンの室内機、照明器具など)の小修繕は借主の負担とすることが多いです。この区分を契約書で明確にします。
-
既存設備の「引き継ぎ」と「修繕」特約:
-
既存設備をそのまま使用する場合、貸主は入居時に正常に作動することを保証する旨の特約を盛り込み、保証期間(例:3〜6ヶ月)内の故障は貸主負担とします。
-
それ以降、経年劣化による修繕は借主負担とする場合でも、**主要なインフラ(給排水本管など)**は引き続き貸主負担とすることを明確にします。
-
2-2. 📢 近隣との騒音・悪臭・用途遵守をめぐる問題(深掘り)
【事例】 浜松駅周辺や繁華街では、ビル内に複数のテナントが入居していることが多く、飲食店と事務所など、業態の異なるテナント間で、音、臭い、振動による苦情が発生し、事業に支障をきたすことがあります。
【回避策】
-
契約前の「入居テナント調査」:契約前に、同じビルや隣接テナントの業種(特に、騒音や悪臭の原因となり得る業種)を確認し、自社の事業との相性を判断します。
-
用途遵守の具体的な確認:
-
契約書に記載された**「用途」(例:飲食店舗、物販店舗、事務所など)**が、自社の事業に合致しているか確認します。
-
**特定の業態(例:カラオケ、風俗、重飲食など)**が禁止されていないか、契約書や管理規約で厳しくチェックします。
-
-
事前に具体的な対策を講じる:
-
騒音対策(防音工事の実施)や悪臭対策(高性能な脱臭フィルターの設置)を行う際は、事前にその工事内容を貸主に伝え、書面で承諾を得る必要があります。後から設備が不十分だと指摘されても対応できるよう、計画段階で貸主や管理会社と密に連携します。
-
2-3. 🔑 転貸・賃借権譲渡の禁止と事業承継
【事例】 事業を第三者に譲渡(M&Aや事業承継)する際、テナント契約も引き継ぎたいにもかかわらず、契約書に**「賃借権の譲渡・転貸は一切禁止する」**と記載されているため、契約の引き継ぎがスムーズにできず、事業譲渡自体が頓挫することがあります。
【回避策】
-
原則禁止の理解と事前の交渉:事業用契約では、賃借権の譲渡・転貸は原則禁止とされています。しかし、事業譲渡は経営上必要なケースがあります。
-
「事前承諾を条件に可能」の確認:譲渡・転貸が可能となるよう、契約締結時に「貸主の事前の書面による承諾を得た場合に限り可能とする」という条項になっていることを確認します。
-
交渉時の準備:将来的に事業譲渡の可能性がある場合は、契約書に譲渡に関する具体的な手続きを盛り込むか、少なくとも「将来的に譲渡が必要になった際には、貸主は合理的な理由なく承諾を拒否しない」旨の覚書を締結できないか交渉します。
3. まとめ:契約前の「徹底した確認」が全て
テナント契約は、事業の基盤となるものです。特に浜松のような都市では、優良物件の競争も激しくなりがちですが、契約内容を吟味せず急いで契約することは最も危険です。
事業を安定的に展開するためには、契約書を読み込み、以下の「三大リスク」について貸主と事前に明確な合意を形成することが肝要です。
-
退去時の原状回復費用
-
契約期間中の修繕責任(特に既存設備)
-
用途遵守と近隣との関係
不明瞭な点は必ず専門家(弁護士、不動産コンサルタント)に相談し、リスクを最小限に抑えた上で事業活動に臨みましょう。